No.033 ■語彙/構わない/
手話の入門講座で必ず紹介される手話単語/構わない/。
どこの会社のコマーシャルだったか忘れたが、「コレで会社を辞めました」というフレーズと一緒に使われたサイン。日本社会では「女」を意味するサインであるが、そのサインの手型を使う。この手型を便宜上、手型イとしておく。
手型イの小指をあごにあてる動作を2回反復させるこの/構わない/という語、実はろう文化・聴文化の摩擦、軋轢の原因を生み出す魔性の言葉なのである。
一般的な手話講座では手話単語に日本語の単語を当てはめて教えている。日本手話と日本語の語彙体系は全く違うというのに、安易に日本語に対応させて教えている。
/構わない/という語もそうで、一応、日本語の「かまいません」「結構です」「いいです」という意味で使いますよ、と教えている。
日本語の「結構です」は英語のNo,thank youの感じに似ている。「結構な~」だったら、excellentあるいはnice、「結構な味」だったらdeliciousになる。同じ「結構」でも使われ方が全然違う。
「結構な味だ」ということを言いたい時に、/構わない/は使えない。/味+ベスト/、/旨い/、/美味しい/、/味+OK/等を用いる。
そして難しいのが日本語の「いいです」。この使われ方が日本手話と日本語とで全く違う。
いくつか会話例を挙げてみよう。
忙しそうにしているBさんにAさんが手伝おうとして手話で話しかける場面
A「手伝いましょうか」
B「あ、いいですよ」
日本手話では『じゃ、よろしくお願いします』という意味で使われているのだ。手話学習者がこの「いいですよ」を日本語の「いいです」に置き換えて、その発話を受け止めていたら、「何よ!この人、手伝ってあげようと思っているのに」とムッとしてしまうだろう。あるいは、もう結構ですという意味に間違えてしまうかもしれない。
手伝ってもらわなくても大丈夫だということを日本手話で言いたい時は、否定語(丁寧さを含む否定)を用いた後、/必要ない/という語を用いる。あるいは、同じ否定語を用いた後、大丈夫という意味で/構わない/を使う。
家に遊びにおいでと誘う場面
A「今度の日曜日、私の家に来ない?」
B「はい、いいです」
これはどうだろう?ちょっとなんだかオカシイ。
誘われている立場にある人が「行っても構わない(いいです)」というのはオカシイ。だから、日本語では「いいの?」とか「ほんと?ありがとう」と言ったりする。ところが手話では/構わない/を用いるのだ。これには「ええ、喜んで」という意味が含まれている。
ところが、ろう者のこの/構わない/の使い方を手話通訳や手話学習中の聴者がよく知らないために、「非常識な」「尊大な」「生意気な」「礼節のない」ろう者だと往々にして思われることがある。
手話の/構わない/と日本語の「構わない」「いいです」「結構です」は、使われ方が全く異なる。
ろう者も聴者もお互いに手話で/構わない/を連発しているが、その語の裏に隠された本当の使われ方を知らないと、例えば、一例ではあるが、聴者はろう者にありもしない責任の所在を追及され気持ちが悪くなるし、ろう者は聴者の「確認しない」「煮え切らない」「報告しない」態度にイラつくということになる。
手話を勉強することは日本語の単語に置き換えるだけのことだと思っていると文化摩擦という大きな落とし穴に落ちることになる。落とし穴に落ちないためには日本手話と日本語は全く別の語彙体系を有するということの意味を十分に吟味し、ひとつひとつの語の運用方法をよく理解することからだと思う。
それだけに手話を教えるというのは責任重大な仕事でもあるのだ。
(2004.12.13)
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コメント
経験少ない私は、この「構わない」で誤解を生じたことはありません。。
説明を見ると、なるほど・・・自分自身が使うとき、また相手の「構わない」の表現を読み取るときには気をつけないといけませんね。。
「構わない」といった表現・・・
関西弁のニュアンスでは「構わない→かまへん」となって・・・
「かまへん、かまへん、かまへんよー」と、実に、やんわりした優しい言葉の印象を持ってます。。
もちろん表情が伴ってのことですが・・・
あくまでも聴者としての意見です。。。
投稿 相楽の聴者 | 2005/01/31 21:33