No.060 ■手話の語源について(2)
今週のメルマガは、「手話の学習に語源の知識」は全く役に立たないことの理由を書きたい。
その際に引用される有名な例が県名の/秋田/。/秋田/には漢字通りに/秋/+/田/と表現されるものと、秋田名産の蕗(ふき)からできたものがある。地元の秋田では、後者の/秋田/が使われていると思う。
手話講座でこの単語を教えるときは、語源が蕗であることを説明し、なおかつ、利き手の手型/タ/(国際的な身振りサインと通用する「グッド」を意味する親指を立てた手型と同じ)の親指の部分が蕗の茎で、非利き手の手を広げた形/B/型は蕗の葉だという説明が付く。
そして、さらに、非利き手の手のひらを上のほうに向け、芯を意味する利き手の親指をまっすぐに上にして手の甲を支えるようにと細かい説明が付く。こうして出来上がったものは、まさに、蕗を模写したような感じである。
ところが、数年も手話を習っているというのに、ろう者の「私は秋田出身です」という入門レベルに相当する手話文を読めない。出身の説明をしているということすらわからないという学習者(通訳者も!)もいる。
この「私は秋田出身です」の文、手話では、/私-生まれ/、/秋田/という構文になっているのだが、ここで表現された/秋田/の、非利き手の手のひらは上を向いておらず、利き手の/タ/も、いわゆる「グッド」を横においたようになっており、手話講座で説明された/秋田/の形とは違うため、本当に別の手話にみえるらしい。
/秋田/の手話の語源説明のみならず、手の形はああすればいいとかこうすればいいというような説明もつく。/秋田/の例では、「非利き手の手は、蕗の葉をイメージしてね。つまり、5指は伸ばして、手のひらは上にしてね。これが蕗の葉ね。それから、利き手の親指を非利き手の甲の下にあてるようにしてくださいね。この親指は蕗の茎ですから、まっすぐにしてね。そして、トントンと手の甲を突き上げるように小さく動かせば、ハイ/秋田/ですよ」というふうにであろうか。
実は、上のように語源に忠実な形として、手の形や動きをひとつひとつきめ細かく設定して教えること自体がすでに間違っているのである。
手話を母語とするろう者は、/秋田/の非利き手の手のひらがどこをむいていようと、非利き手の手の甲に利き手の親指の先をあてる動作だけがあれば/秋田/とわかるようになっている。
一方、/名前/の手話は、手話講座では、この語源が拇印を押す動作からきていることを説明した上で、非利き手の手のひらを正面にむけ、利き手の親指の先を手のひらにあてる動作をすればよいというように教えていると思う。
実は、/名前/と/秋田/は、(音韻の)ミニマルペアの関係にある。極端な話、利き手の親指をあてる動作の先が手のひらか手の甲か、だけで/名前/か/秋田/を区別しているのである。手のひらがどこをむいているのかは、ここでは音韻的に重要視されていないのだ。
つまり、/秋田/が手話の語として語彙化される時点で、手のひらの向きの区別が失われ、もとの語源の形からは大きくかけ離れた形になった。
手話の語は、語彙化される時点で、語源に忠実な形は失われ、語源に依存した手話学習は無意味であるということがわかると思う。
次週のメルマガも、メルマガ読者の方の体験談や感想も含め、手話の語源に関連したことを少し書きたい。
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