« ■懲役10年は妥当? | トップページ | ■記念写真? »

No.093 ■「/注意する/と/助言する/」

 私の職場である手話通訳学科で「卒業研究発表会」があり、終了後1年生を集めて反省会のようなものをした。卒業研究の発表は2年生が行い、1年生は裏方で受付や弁当手配などを担当する。その反省会での発言だ。卒業研究発表会では、休憩時間にセルフサービスの飲み物を提供する。お湯を入れたポットを2台と紙コップを用意しておいた。すると、先輩に「注意された」のだという。どんな失敗をやらかしたのだろうと聞いていたら、「ポットが2台あるのだから、紙コップも二手に分けてそれぞれのポットの近くに置いておいてはどうか」と言われたらしい。学生は「"注意"される前に、気を利かせて紙コップを分けておけば良かったものを・・・」と反省していたが、それは「注意」ではなく、「助言」だったのではないだろうか。状況を聞いてみると「怒られた=注意された」ではなく「助言された」と言うべきものだと思うのだ。手話の「注意」は大失敗をおかしたときに、二度と同じ失敗をしないようにと厳しく言うことであって、上記のようなことは「助言」であり、その返答は「助言いただき、ありがとう」となるべきものだ。この学生は、怒られたと思い「すみません」と謝ったかもしれない。

 日本語にも「注意」という語彙があり、手話にも<注意>という語彙があるので、それぞれを結びつけて覚え、安易に使うのだと思うが、実は、日本語の「注意」と手話の<注意>は意味や使用場面が微妙に異なる。日本語の「注意」のつもりで手話で<注意>とすると齟齬が生じる。このようになんだか釈然としないままにしているろう者も多いのではないだろうか。

 似たような例で「相談」という言葉もある。時節柄、学生と進路のことなど話すことが多い。「相談したい」というので話を聞いてみると、どこにも「相談」は出てこず、結局「報告」だったということがよくある。もう既に決まっていることや決意したことを先生に伝えておきたいということらしいが、その時間を確保するために「報告があります」ではなく「相談があります」と言うのだ。「相談」と言われたから、何がしか助言をし、共に考えてやろうと心積もりしているのに、話の中でどこにも私が助言すべき箇所は見つからない。いったいどういうことだと思っていたが、どうやら、日本語では「相談したい」という前置きと、「報告あります」という前置きでは印象が違うらしい。学生から先生に向かって、日本語で「ご報告があります」と言ってしまうと、なんと生意気なと思われてしまう。そこで、内容は報告事項であっても、相手に失礼にならないよう「ご相談が・・・」と切り出すようだ。「ご報告があります」と切り出せるのは結婚が決まったときぐらいだろうか。しかし、手話で<相談したい>と言われたから、それなりに学生を迎えた当方としては、心積もりした分だけ損した気分になる。ろう者は、本当に助言がほしいとか、考えを聞きたいというときにだけ<相談したい>と言い、報告するだけのときにはきちんと<報告する>と言うものなのだ。

 たしかに、日本語にも手話にも「注意」<注意>、「相談」<相談>はある。しかし、それぞれの使用範囲が完全一致してはいないことを踏まえていただきたい。さもないと、いつまでもろう者と聴者の隠れた齟齬はなくならない。


(日本語訳:chu)

■このメルマガは、2008年5月5日にまぐまぐ!によって配信されたものです。

|

ろう者の言語・文化・教育を考える(No.084~)」カテゴリの記事

コメント

はじめまして。うもうもと申します。聴者で、手話通訳者です。

「相談があります」という人は、必ずしも「答え」や「アドバイス」をほしいとは限らないものですよね。まして、会話の中で出た言葉なら、なおさら厳密な意味で使うよりも、話のきっかけぐらいに「相談」という言葉を使うこともあるんじゃないかなと思います。

「相談したい」と言いながら、「話を聞いてほしい」「『うんうん』と頷いてほしい」「自分の考えに、同意してほしい」という心理が働くのではないでしょうか。ひとりでは、さみしいですもんね(笑)

ただ、講師に対して「相談したい」というと、講師は心の準備をしてしまいますよね。

会話語と、公的な言語の違いといったところでしょうか?

投稿 うもうも | 2008/05/21 01:27

はじめまして、私は中途難聴者です。
まだまだ手話勉強中で、ときどきお邪魔しています。
ビジネスは別として、日本語では「相談したい」と言われて、「なんだ、ただ話を聞いてほしかっただけか。」ということはままあることですよね。
誰かに相談しようと決めた時点で、本人の中では、大方の進路がすでに決定している、ようです。
しかし、手話の場合は、明確な違いがあると。
ちょっと思いがけなく思いました。
「相談」と「報告」、持ちかけた本人にもよくわからないのかもしれません。
きゃぶさんの質問「連絡」はつまり、誰かに伝えること、ですよね?なにか、謎めいています~(^^;答えを教えてほしいです。

投稿 ごろちゃん | 2008/05/20 23:00

 「ホウレンソウ」というビジネス界の有名な言い回しを皆さん、ご存知ですね。「報告」「連絡」「相談」のことです。
 これを見る限りは「相談」と「報告」は別モノ、のはずです。もちろん実態は異なります。


 手話単語で「連絡」はどうなりますか。どなたかコメントを。

投稿 きゃぶ | 2008/05/19 19:59

コメントを書く