No.083 ■指さし
人に対して指さしてはいけないと子どもの頃に注意された、という経験はほとんどの人がしていることではないだろうか。
私も子どもの頃、指さしてはその手を親戚の人たちに払いのけられたことがある。ろうの父母からは「指さし」で注意される、ということはなかったから、聴者に対しては露骨に指さしてはいけない、と学習した。
けれども、手話で話す以上、どうしても指さしを欠かすことができない。指さしは、手話においては、代名詞と文末代名詞の2つという機能をもつ。
見知らぬ人から突然殴られたという経験をもつろう者は多い。特に男性に多いようだ。ろう者同士で笑い話を楽しんでいたらパンチが飛んできた、ということか。原因は、手話の指さし。殴ったほうは、指さされて笑われたから、ということになるらしい。
そうしたトラブルがもとで刑事事件になることもある。だから、ろう者の中は、聴者に対してはむやみに指ささないように気をつけている人もいる。
ところで、聴者と手話で会話中に、相手が急に視線を外すので、何事かと思って、後ろのほうを振り返ってみると…自分が指さした方向を相手が見ていただけ、ということがよくある。そのときの指さしは、実物を指示するためではなく、代名詞(あるいは文末代名詞)なのだが…。
ろう者の手話文に比べ、聴者の手話文における指さしの出現頻度は低い。特に文末代名詞が抜けるため、聴者の手話文を見ている間に、主語や目的語が何なのかわからなくなることがよくある。
そう、指さしは、主語や目的語を区別する機能も併せ持つ。例えば、4歳のろう児は、主語と目的語を指さしで区別することができる。
(PT=指さしによる代名詞)
(-pt=文末代名詞。直前の語と音韻的に連続して表出される。主語と一致する。)
A児とB児2人の会話。ふたりとも女の子。C児(男の子)のことが話題になっている。
A児:PT1 PT3 好き-pt1。
B児:ほんと?
A児:うん。PT3 PT1 好き-pt3。ねえ(C児にふる)。
C児:…(生返事)
上のPT1は「私」に、PT3は「彼」に相当する。主語と一致する文末代名詞をおくことで主語と目的語を区別させる機能を4歳児がすでに習得していることがわかる。
日本語に訳出すれば、下のような会話になるだろうか。
A児:わたしね、Cクンのこと好きなの。
B児:ほんと?
A児:うん。Cクンもね、私を好きだって。ねえ、Cクン。
C児:…(生返事)
上の会話は、デフフリースクール龍の子学園に通っている子どもたちの、ほんとにあった会話である。(ちゃんとビデオに撮ってある)。聴児と同じような会話をしているのがわかる。それにしてもおませな女の子…だと思う。
(2007年5月9日発行)






















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